泡瀬干潟保全に関する決議(沖縄弁護士会)

 

200210月、国は、中城湾港泡瀬地区埋立事業(以下、泡瀬干潟埋立事業という)のいわゆる海上部分の工事(国施工区域第1工区及び沖縄県施工区域の工事。以下、1期工事という)に着手した。

 同工事が行われる泡瀬干潟は、中城湾に位置する約265haの広大な干潟で、沖縄県作成の「レッドデータ沖縄(1996)」で絶滅危惧種に指定されているクビレミドロやトカゲハゼ等が生息する外、シギ・チドリ類の渡り鳥が飛来する貴重な干潟であり、その周辺には沖縄最大の藻場が広がるなど豊かな海域に所在している。泡瀬干潟は、ラムサール条約登録湿地となるための国際的な基準を満たしており、その保護は、ラムサール条約締約国としてわが国が負う国際的に重要な責務の一つである。

 ところで、泡瀬干潟埋立事業は、国と沖縄県が事業主体となって、泡瀬干潟と周辺海域の公有水面185ha.を出島方式によって埋め立てようとするものである。同埋立事業の目的は、中城湾港新港地区の整備のための航路浚渫工事に伴い発生する浚渫土砂の処理と埋立地に計画する「マリンシテイ泡瀬」というマリーナ・リゾートの建設の2つとされている。

 しかし、泡瀬干潟埋立事業は、以下のように重要な問題点が指摘されている。

1点、上記リゾートの施設はバブル期の発想・事業予測を前提とし、バブル崩壊の現在、その合理性に専門家から深刻な疑問が投げかけられており、再度の検討を加える必要性が生じていること。

2点、浚渫工事により生じる土砂処理の場所・方法につき、泡瀬干潟の埋め立て以外の他の地域に処分する代替案が検討されていないこと。

第3点、環境アセスメントにおいて、泡瀬干潟の有する環境保全上の重要な価値に対する認識・評価が欠如しているほか、現地調査が不十分であること。

 同指摘は、いずれも合理的理由を有するものであり、自然環境保全の重大性、特質を考慮すると、事業の必要性、その合理性を今日の社会的・経済的事情及び科学的知見に基づき慎重に再検討する事業の柔軟性を保有すべきものである。

 20012月に設置された「中城湾港泡瀬地区環境監視・検討委員会」では、着工以前に環境保全の代替措置たる海藻草類移植の有効性をまず確認すべきであるとの議論がなされていたことは、この趣旨を含むものであり、その基本姿勢は維持されるべきものである。

 同移植の有効性を確認する実験は、2002年の台風による移植海草藻類の被害があったこともあり、いまだ移植の有効性が確認されていないものであり、このような状況の中で、今回の1期工事の着工に至っているものである。

 当会は、以上のような泡瀬干潟埋立事業が有する問題点を踏まえた上で、いったん行われた環境破壊が回復不能な被害をもたらすものであること、事業の性格が緊急性を有しないこと、暫定的代替措置を検討する余地が存すること等の諸事情を総合して判断すると、現在1期工事を進める国の強硬な姿勢に対し、強い懸念を表明せざるをえないものである。

 人間が人間として所在する基盤を形成する豊かな自然を保全することは、弁護士会の与えられた大きな社会的責務の一つである。

 当会は、このような立場から、事業主体である国に対し、クビレミドロ等の海藻草類移植の有効性及び1期工事が現存するクビレミドロ等の海藻草類に及ぼす影響が科学的に明確になるまでの間、1期工事を中断するとともに、泡瀬干潟埋立事業全体につきその是非及び方法につき再検討するよう柔軟な姿勢をとることを強く求めるものである。

2003527

沖縄弁護士会 会長 新垣勉

 

提案理由がありますが、全文は割愛し、概略を下記に示します。(泡瀬干潟を守る連絡会事務局まとめ)

 

提案理由

.沖縄の干潟はほとんど埋め立てられ消滅している。泡瀬干潟は今や沖縄最大の干潟であり、貴重なとこ

ろである。泡瀬干潟の保全は、沖縄県の課題であるだけでなく、日本全体の問題であり、ラムサール条

約に加盟している日本の責務でもある。環境省は、同干潟を重要湿地に指定している。

.この埋立事業は沖縄市の3割以上を軍用地が占めていることから、基地経済からの脱却をめざし進められた。しかし、沖縄市の独自計画であり、バブルの崩壊で計画の目途が立たず、困難な状況であった。しかし、98年新港地区が特別自由貿易地区に指定され、国が事業に参画し、浚渫土砂の処分場として、泡瀬干潟埋立事業が進んだ。

.沖縄市では、この事業に賛成・反対の対立がある。沖縄タイムスの世論調査では57%が反対であり、一方事業推進派は85千の推進署名を集めたと主張している。

.干潟の保全にかんしては、環境監視・検討委員会が設置され、事業実施者に対し指導・助言を行えるよ

うにした。

現時点で、クビレミドロの移植技術の確立もできておらず、海草移植実験の結果からは移植の有効性は確認できず、機械化移植・手植え移植も移植方法として適切であるとの結論を得ていない。

.それにもかかわらず、国は海上工事を着工した。この工事がクビレミドロに影響を与えることは否定できない。

この事業着工に抗議し、環境監視・検討委員会の委員が一人辞任した。

.1期工事を早急に実施しなければならない実質的理由に乏しく、新港地区の浚渫土砂処分の代替案も検討されていない。事業により消滅した自然を復元することは不可能であることを考慮すると、1期工事の施工に固執することは妥当でない。

 

上記事情を総合的に考慮すると、国は、もっと柔軟に対応すべきである。クビレミドロ等の海草藻類移植の有効性、1期工事がクビレミドロ等の海草藻類に及ぼす影響が明確になるまでの期間、工事を中断し、同有効性及び影響の有無を確認する調査研究を行うべきである。そして、その間に、事業全体の是非につき並行して専門家の検討を加えるべき柔軟な姿勢を堅持するべきである。

 当会は、泡瀬干潟の環境保全の重大性・緊急性、環境保全の持つ根源的価値に照らし、本決議を提案するに至った。