泡瀬の第1期工事計画区域内の深場で複数の貝類貴重種を発見
泡瀬干潟生物多様性研究会・日本自然保護協会(泡瀬干潟自然環境調査委員会)・泡瀬干潟を守る連絡会
2004年8月23日
泡瀬干潟生物多様性研究会・日本自然保護協会(泡瀬干潟自然環境調査委員会)・泡瀬干潟を守る連絡
会は,2004年の調査において,泡瀬の第1期工事計画区域内の深場(学術用語では潮下帯=干出しない海
域)から以下のような貝類の貴重種を発見したので報告し,埋立事業に関する意見を述べる.
巻貝類
オキナワハナムシロ Nassarius optimus (Sowerby, 1903)(オリイレヨフバイ科)
第1期工事計画区域内の深場(水深3〜6m)で生貝2個体が確認された.本種は,久保・黒住(1994)に
よって「名護」から記録されているが,琉球列島の具体的な生息地は他に知られておらず,泡瀬は現在(報
告者らの知る限り),本種の国内2番目の生息分布確認地である.本種は内湾潮下帯の砂泥底に生息し,琉
球列島では生息地が極限されている種と考えられる.沖縄島は本種の分布の北限である可能性がある.WWF
ジャパンのレッドデータブック(和田ほか、1966)では「危険」と評価されている.
カゲロウヨフバイ Nassarius sp. (オリイレヨフバイ科)
第1期工事計画区域内の深場(水深3〜6m)で生貝3個体が確認された.本種は,奥谷(2000)によれば
,学名未確定種(Zeuxis sp.)で,奄美・沖縄諸島の内湾・水深2-30mに分布するとされる.久保・黒住(199
4)が「名護」から,沖縄県立博物館(1992)が「名護市瀬嵩」から,タテヤマヨフバイ Nassarius
computusとして記録した貝と同種であると考えられる.タテヤマヨフバイは本州の水深・数10m以深に生息
する種であり,カゲロウヨフバイとは別種であると考えられる.琉球列島での生息地は内湾域において局所
的にしか確認されていない.
コウシヒメムシロ Nassarius (Hima) taggartorum Kuroda, 1960(オリイレヨフバイ科)
第1期工事計画区域内の浅場から深場にかけて(水深1.5〜6m),新鮮な殻1個体とやや古い殻複数が確
認された.本種は「沖縄群島産貝類目録(黒田,1960)」で「与那原湾馬天」(注:佐敷町馬天)を模式産
地して新種記載された.黒田(1960)の原記載の記録は浚渫砂泥から得られた殻であり,本種はこれまで生
息が確認されたことがない.泡瀬において新鮮な殻が得られたことから生息している可能性があり、詳細な
調査が必要である.本種はナミヒメムシロNassarius (Hima) pauperus (Gould, 1850)と同種とされること
もあるが(Cernohorsky ,1984; Higo et al., 1999),殻の格子状彫刻が著しく,肩角が張るなどの特徴
がある.両種の種間関係については詳細な検討が必要であるが、報告者は別種であると考えている.琉球列
島では中城湾からしか記録されていない.本種の図が公開されるのは,原記載以来44年ぶりとなる.
(訂正・山下博由 本種はこれまで図示されたことが2例しかなく、カラー写真が公開されるのは今回が
初めてである。)
二枚貝類
ヤマホトトギス Musuculista japonica (Dunker, 1857) (イガイ科)
第1期工事計画区域内の深場(水深3〜5m)で生貝1個体・殻3個体が確認された.ムールガイの名で知
られるイガイ類の仲間.本種は,房総半島以南〜東南アジアに分布するが(奥谷,2000),日本では本州〜
九州でしか確認されておらず,これまで琉球列島からは記録がなかった(黒田, 1960;久保・黒住, 1995;
Higo et al., 1999;名和, 2001等).また,泡瀬の個体群の殻には斑紋が少なく,本州の個体群とは模様
が異なる.愛知県レッドデータブック(愛知県環境部自然環境課,2002)では絶滅危惧IA類(CR),WWF
ジャパンのレッドデータブック(和田ほか、1966)では「危険」と評価されている.
コバコガイ Montrouzieria clathrata Souverbie, 1863 (アサジガイ科)
第1期工事計画区域内の深場(水深3〜5m 6m)でやや新鮮な片殻が複数得られ,生息しているものと考
えられる.1cm程度の小形の二枚貝類.本種は,沖縄産として過去に記録されたことがあるが(波部, 1977)
,それまでには記録のなかった種(黒田, 1960)である.また,その詳細な分布域や生息場所は全く不明で
あった(Higo et al., 1999等)が,今回の発見によってその生息環境が解明されつつある.
まとめ
以上のように,泡瀬の第1期工事計画区域内の深場から,生物学的(分類学的・生物地理学的)に貴重で
重要と考えられる複数の種が確認された.これらの種は,本年度の海上工事計画区域付近に分布しており,
工事が施行されれば,その影響は免れないものと考えられる.したがって、本年度の工事計画の見直しを求
めたい.
今回調査した深場は,砂泥〜泥の内湾的な環境であり,そうした環境に特異な種が出現していると考えら
れる.このような内湾的な生物生息環境自体が琉球諸島には稀である.この深場には,特殊で貴重な生態系・
生物群集が成立していると指摘される.これは泡瀬の環境と生物多様性の重要な側面である.
このように泡瀬は干潟域だけでなく、深場も貴重な環境であることが明らかになりつつある.したがって
、干潟域のみに主眼を置いたこれまでの環境保全の論議・施策は再検討されなければならないと指摘され
る.例えば「消失するのは干潟の二割です」というような事業者の主張は, 泡瀬の環境の全体性を正しく評
価しているとは言えない.
今回確認された諸種は1cm〜数cm程度であり,内閣府沖縄総合事務局の「希少甲殻類・新種貝類等確認
調査(平成15年9月)」では,このサイズの貝類も調査されていたにも係わらず,発見されていない.
すなわち,沖縄総合事務局の調査は不充分であり,泡瀬の生物多様性を正確に把握できていないと指摘さ
れる.
多くの貴重種が,市民調査の指摘により泡瀬から新たに確認されている.このことは,環境影響評価書そ
のものが,非常に杜撰なものであったことを証明している.
泡瀬の環境と生物多様性の素晴らしさは、既に多くの研究者や人々が認めるところであり、世界的な「島
人ぬ宝」と呼んでも全く過言ではない.我々は沖縄県と沖縄市の発展において,この泡瀬の自然の素晴らし
さを有効に活用できないであろうか.今ある「島人ぬ宝」に我々が気付かないのであれば、沖縄の未来はど
うなるのだろうか?.泡瀬の自然の豊かさを,人間の未来の豊かさに重ねるような政策を期待したい.